【スイス紀行】マニュファクチュール・ツアー3日目(後編)『エナメルワークショップ』
今日2月7日の午後はヌーシャテルのエナメル工房で、エナメル職人ヴァネッサ・レッチによるエナメルワークショップに参加しました。
エナメル装飾には以前から興味があり、いつか体験したいと思っていました。
ヌーシャテル湖の近くに工房があります。
工房の壁には彼女がこれまでに手掛けた作品の写真が貼ってあります。
パルミジャーニ・フルリエの他にもヴァシュロン・コンスタンタンやカルティエなど、ぱっと見ただけでわかる一流ブランドの作品が見られます。
■エナメルの巨匠ヴァネッサ・レッチ
パルミジャーニ・フルリエのユニークピースなどに施されるエナメル装飾を手がけるヴァネッサ・レッチ。
世界最高峰のエナメル職人です。
今日は彼女の工房でエナメル加工の体験をさせていただきます。
ここで少し、エナメル装飾について紹介させていただきます。
■グラン・フー・エナメルとは
『グラン(大きい)』、『フー(火)』の名前は、800~1000℃という高温でエナメルパウダーを焼いて定着させることに由来しています。
高温で焼成された文字盤はとても強固なガラス被膜のエナメル面となります。
エナメル装飾の技術を持つ職人は現在ほんの一握りしか存在せず、『失われた装飾技法』とも言われています。
その希少なエナメル装飾は、世界で最もプレステージの高い時計ブランドだけに見ることができます。
エナメルの長所は色褪せない点にあります。製作には非常に繊細で複雑な作業が伴いますが、光を受けて輝く姿は多くの人々を魅了します。
その工程は、まずエナメルパウダーを作ることから始まります。
そして銅板に糊とエナメルパウダーを乗せ、炉に入れて焼くという作業を数回繰り返してエナメル板の下地を作り、表面を整えてからエナメルパウダーをふりかけ、仕上げの焼きを入れます。
焼く時や仕上げの段階で少しでもひび割れがおきれば修正がきかず、全ての工程を経て完成する文字盤は非常に希少な芸術品となるのです。
■パルミジャーニ・フルリエのエナメル装飾
この時計はパルミジャーニ・フルリエのユニークピース『ラルモリアル』です。
『ラルモリアル』は、ミシェル・パルミジャーニ氏の誕生日を記念して発表される『オブジェ・ダール』コレクションのひとつで、2023年12月2日に発表されました。
この懐中時計には1890年製のムーブメントが入っていて、クロノグラフとミニッツリピーターを搭載しています。
ミシェル・パルミジャーニは1985年にこのムーブメントを修復し、さらにパーペチュアルカレンダーを追加しました。
ホワイトゴールド製の裏蓋は、荘厳なグラン・フー・エナメルで彩られています。職人の手によって彫り込まれた模様ひとつひとつに半透明のエナメルで色を付けていきます。
彫り込まれた形状やその深さの違い、エナメルの透明性と光の反射によって繊細なニュアンスと特徴的な表情が生まれ、美しさに深みが増します。
グラン・フー・エナメルは緻密なアートで、温度管理とテクニックには熟練が必要です。エナメル職人の熟達した職人技によって傑作が生み出されます。
ラルモリアルの芸術性には、エナメル職人ヴァネッサ・レッチの技術と感性が際立っています。
グラン・フー・エナメルは太古の芸術といわれ、それを手がけたエナメル職人の並外れた技術を物語っています。
■エナメル装飾を体験
エナメル装飾についてわかったところで、実際に体験してみます。
作業台の上にある銅板にエナメルを乗せていきます。
塗るというより筆でエナメルをすくって置いていくイメージですが、それがなかなか難しく…。トントンと叩くイメージで乗せていきます。
水分を含んだ状態で乗せるので、傾かないよう均等に乗せるのが特に難しいのです。
そしてエナメルを乗せたあとに炉に入れて焼いていくのですが、焼く前と焼いた後では少し違う色味になりますし、エナメルパウダーに水分が多いと焼くことでエナメルが落ちてしまったり。
本当に根気と技術の必要な、大変な作業だと思いました。
写真のピントがぼけてしまいましたが、これが今回の作品です。
なかなか味のある仕上がりで、我が作品ながらけっこう気に入りました。
実際に体験してみて、やはり一流の職人の作品は完璧な仕上がりで、さすが熟練した匠の技だと実感させられました。
ちなみに今回指導してくださったヴァネッサ・レッチさんのレベルのエナメル職人は、現在世界に3人しかいないそうです。
本当に貴重な体験ができました。
■最後の夜のディナー
ディナーはヌーシャテル湖の近くの『Brasserie du Poisson』でいただきました。
シックな内装で、落ち着いた雰囲気の中で食事ができました。
こちらは魚料理が人気のレストランで、どの料理も美味しかったです。
数日間ツアーをともにした仲間と今回のツアーの思い出話にも花が咲き、名残り惜しさもありました。
■最後に
これで現地リポートは終了となります。
今回のマニュファクチュール・ツアーを通じて、一流の時計を製造するまでにどれほどの卓越した技術を持ったサプライヤーや職人が関わり、それぞれの持ち場で最高の仕事を追求しているのかが、よくわかりました。
そして、そんな究極のサプライヤーたちをグループ会社に持つパルミジャーニ・フルリエの凄さをあらためて知ることができました。
皆さま、お付き合いいただきありがとうございました。
7,February,2024