ユリス・ナルダン 『フリーク』 – 革新的機構『カルーセル』とは –
皆さま、こんにちは。
前回のユリス・ナルダンのブログでブランドの歴史や歩みに触れ、同社が時計業界に与えてきた功績についてお話ししましたが、今回はユリス・ナルダンの革新的モデル、フリークについて触れていきたいと思います。
まずはこちらの動画をご覧ください。
(ULYSSE NARDIN公式サイトより)
■革新的な機構の時計『フリーク』
2001年のバーゼルで発表されたユリス・ナルダンの初代フリークは、見る者に絶大なインパクトを与えました。
この時計には文字盤がなく、針の代わりにムーブメントが動いて時刻を示すという、奇想天外な機構で時計業界の話題をさらいました。
『フリーク(FREAK)』とは英語で『異形』『異端』、または『熱狂的なマニア』という意味です。
きっとこの時計は、その両方の意味で名づけられたのでしょう。
■フリークの持つ複雑機構『カルーセル』
このモデルの開発を手がけたのは、すでに『天文三部作』などで名声を得ていたユリス・ナルダンの頭脳、ルートヴィヒ・エクスリン博士です。
機械式時計の世界に超複雑機構という新たな存在価値を表現した『天文三部作』など数々の驚愕機構を生み出してきたエクスリン博士は、この機構でさらなる挑戦を行いました。
フリークはテンプを含めたムーブメント自体を回転させて時・分を表示する機構で、ムーブメントが1時間に1回転して分を表示します。
そして、時間を表示するプレートが12時間に1回転して短針の役割を果たします。
分針のエンド部分に配置されたシリシウム製のバランスホイール(テン輪)がゆっくり回転しながら毎秒6振動する動きはまるで脱進機が宙に浮いて回っているようで、惑星の自転と公転を連想します。
この機構のことを『カルーセル』といいます。
カルーセルとはフランス語由来の英語で『回転木馬』、つまりメリーゴーランドという意味だそうです。
■カルーセルとトゥールビヨンの違い
カルーセルとトゥールビヨンはよく似た機構です。
どちらの機構も重力を分散して平均化するという点は同じですが、その機構に大きな違いがあります。
この2つの機構の違いは、トゥールビヨンはキャリッジと呼ばれる小さなカゴに入った脱進機が1分間に1回転するのに対し、カルーセルはムーブメントを載せた土台が1時間に1回転します。
トゥールビヨン機構
カルーセル機構
トゥールビヨンは脱進機が早く一周するため、回転する動きを見て楽しめます。一方フリークに搭載されているカルーセルは脱進機が文字盤の上をゆっくりと移動していくので、見るたびに違う位置で躍動する脱進機を見て楽しめます。
例えるなら『椅子に座ったまま360°見渡す』場合に、回転椅子に座って椅子を回すのがトゥールビヨンで、回転する床の上に椅子を置いて床ごと回すのがカルーセルといった感じです。
■ユリス・ナルダンが作ったシリコン脱進機の時代
フリークは初めてシリシウム(シリコン)製脱進機を搭載したスイス時計です。
シリシウムは軽量で弾力性があり、摩擦が少ない上に抵抗力も高く、耐摩耗性に優れています。
しかし当初シリシウムは極めて不安定な素材で、湿気に弱く繊細で急激な温度変化にも弱いため、実用化には壁がありました。
そしてユリス・ナルダンは何年にもわたる試行錯誤と研究の末、シリシウムにダイヤモンド被膜をコーティングした『ダイヤモンシル』素材の開発に成功しました。
シリシウム(シリコン)製パーツ
それから20年が経ち、現在では多くの高級時計メーカーがシリコン製のパーツを使用しています。
シリコンパーツを使用したすべての時計は、フリークに端を発しているのです。
■原点回帰したフリークの最新モデル
初代フリークが誕生してから、いくつもの個性的な機構のフリークが世に送り出されています。
今年のWatches & Wondersで発表された『フリーク ワン』は、初代フリーク2001の『文字盤がなく、針がなく、リュウズがない』という3つの特徴を備えた、フリークのルーツとなるモデルの進化版です。
44mmのケースにパワーリザーブ72時間の自動巻きムーブメントCal.UN240を搭載し、自転するフライング・カルーセル・ムーブメントにはシリコン製の特大オシレーターとヒゲゼンマイを備えています。
時刻合わせはベゼルを使って操作します。6時位置にあるレバーロックを持ち上げるとセッティングシステムが解除され、操作が可能になります。
そしてベゼルを回転させると針の役割を兼ねているムーブメント全体が回転します。
レバーロックを元の位置に戻すとベゼルがロックされ、時刻合わせが完了します。
巻き上げは裏蓋の機構を使って行います。
【フリークONE】
品番:2405-500-2A/3D
ムーブメント:自社製キャリバー UN-240
自動巻き、72時間パワーリザーブ、フライング・カルーセル・ムーブメント、21,600振動
ケース:44mmサテン仕上げブラックDLCチタン、ローズゴールドベゼル、3気圧防水
予価 ¥9,262,000-(税込)
■まとめ
いかがでしたか?
2001年の発表以来、時計業界に大きなインパクトを与え続ける、“異形” ”熱狂的なマニア”という名の『FREAK』。
実際にフリークには異形ともいえる個性があり、マニアックで熱狂的なファンがいます。
そして、誕生から20年以上も改良が重ねられ、現在も進化を続けているところが何より驚異的で、ユリス・ナルダンにしかない個性を生み出しているのだと思います。
フリークはこの先も、機械式時計の新たな可能性を追求し続けていくでしょう。
今年の新作『FREAK ONE』の入荷を楽しみにお待ちください。